インタビュー 渡辺弥生さん

渡辺弥生さんは町田市小山生まれ。地元の小学校を卒業し、中学生の時、父親の転勤で家族と共に米国のテキサス州ダラスに。
ダラスでは平日は現地のハイスクールに、週末は日本語学校で補習という生活を送っている。ダラスは移民が多いい土地柄で、学校内に英語が母国語ではない生徒のためのESLクラスがあり、このクラスで英語を勉強したそうだ。2年間ダラスで過ごし、高校進学のために単身で帰国し、八王子にあった高校の英語科に進学する。

高校時代は飲食店や美容院などいろいろなアルバイトを経験する。高校を卒業後、アルバイトをしていた相模原の美容院にそのまま就職し、美容専門学校にも通う。美容師免許は取得できなかったが良い経験になったようだ。

料理が好きだったので手に職をつけようと調理師の資格を目指すことに。受験資格を得るために飲食店で2年間働き、国家試験に合格する。資格取得と同時に保育園に調理士として就職する。保育園で調理師として働く中で、保育士の資格があれば働くチャンスが広がると思うようになり、受験資格を得るため通信の短期大学に入学し、卒業と同時に保育士試験に合格している。渡辺さんは二人のお子さんを育てながら調理師、保育士の資格を得ている。

その後、産後ケアの先進国である韓国式の産後サポートの会社で働く。保育士や調理士の資格を持っていたし経験も豊富、そして子育ても経験していたので多くの顧客からオファーをもらったそうだ。

同社を退職後、個人でベビーシッターをしながらドゥーラ協会の養成研修を受け産後ドゥーラの資格を得る。産後の女性は精神的にも肉体的にも厳しい状況に置かれる。特に核家族化が進む現代の日本では産後の母親に負担が集中している。そうした産後の女性達が求めるサポートはそれぞれ違う。渡辺さんは産後の女性や家庭の状況に合った様々なサービスを提供している。

ベビーシッターや産後ケアの仕事をする傍ら、趣味の刺繍をもっとたくさんしたいと思うようになる。転機は始めての個展。個展の会場に多くの人達が足を運んでくれたし、作品を熱心に見てくれた。自分の作品がこんなにも多くの人達に見てもらえるとは思っていなかったので、とてもうれしかったそうだ。そして、自分の進みたい方向が見えたような気がしたという。

ベビーシッターや産後ケアなどの訪問サービスの仕事を続けながら、2021年夏に町田市森野に小さな二階建の家を借りてカフェ「いとと色いろ」をオープンさせた。
費用を抑えるため、大工さんに手伝ってもらいながら自分でできる箇所は自らやったそうで、手作り感一杯の素敵なお店に仕上がっている。

「いとと色いろ」は刺繍制作のためのアトリエや展示場所としてはもちろんのこと、子育てや産後の話を気軽に話せる場所であり赤ちゃん連れのママやご家族がゆっくりお茶を楽しめる場所を目指している。
そして、渡辺さんが大好きな刺繍作りをもっとたくさんしたいと思うようになったきかっけを作ってくれた個展の会場のように、誰かの「大好きなこと」「楽しいこと」を実現する場所になることも目指しているそうだ。

特に大きく宣伝しているわけではないし、外観からも店名からも何をしているところか分からないと思う。でも、興味を持ってくれる方や面白そうって思ってくれる方が訪ねてくれたらいいなと。これからも、ゆっくり自分でできる範囲で運営していけたらと渡辺さんは話してくれました。

(インタビューを終えて)
このインタビューを通して、産後ドゥーラ、産後ケアという概念やサービスがあること、また、こうしたサービスが公的な支援として少しずつ定着しつつあることを知りました。
母親に子育ての過度な負担を強いている日本社会。「子どもは社会全体で育てる」という考え方に立って国の仕組みを再構築していくべき時期にきていると思いました。

(インタビュー・文 / 山本満)