インタビュー 小野由加里さん

小野由加里

ヘアースタイリスト

相模原市在住

小野由加里さんは福島県いわき市生まれ。小学校も中学校も美空ひばり「みだれ髪」の舞台となった塩屋崎灯台のすぐ近くにあった。高校では大学進学を目指し私立文系コースに進むが、将来を真剣に考えるようになる高校3年の頃、文系進学に疑問を持つようになる。美術大学を目指す友人もいて、自分が「物足らない女子」に見えたという。

いわき市は映画「フラガール」で名が知れたスパリゾートハワイアンズがある。小野さんは高校3年の時、フラガールのモデルとなったダンサーが主宰するスクールでフラメンコを習っている。ダンサーの道に進もうと考えたが、両親に地に足のついた仕事を目指すべきと諭される。また、広い世界を見るため東京へ行くことを勧められる。

友達に簡単なメイクをすると、とても喜んでくれたことが嬉しかったし、小さな時から絵が得意で、家の近くにあった小名浜漁港で海や船を描くことが好きだった。そんなことを思い起こし、東京八王子にあった山野美容芸術短期大学へ進学することを決める。大学では芸術学科を選び、美容の技術だけでなく、絵画などの勉強にも取り組んだ。

最初の就職は八王子にあった老舗美容院「トム&スージーファクトリー」。40年以上の歴史を持つ美容室で、学校の友人達みんなが羨むような狭き門だったという。

美容室はアシスタントとして経験を積み、スタイリストになるまでの道のりは長い。スタイリストに成れず脱落していく人も多い。この店ではアシスタントを経てスタイリストになるまでに7、8年かかるが小野さんは入店2年目で社内の試験に合格し、ダントツに若いスタイリストになる。試験に出題されるヘアースタイルを徹底的に練習したという。他のヘアースタイルの勉強を全て捨てて。だから、スタイリストになった当初は多様なヘアースタイルを求めてくるお客さん相手に苦労したようだ。

25歳の頃に小さなサロンを任されたこともある。また、全国のスタイリストが集うデザインアワードで二度グランプリを獲得している。寝ても覚めても、美容室のことだけを考え続けていたという。集中の人なのだ。

9年間この店で頑張るが、満足に有給休暇がとれないし、親しい人の冠婚葬祭にも行けない。お客様は大切にしているのに、自分の大切な人を大事にできない状況に疑問を抱くようになり退職する。

次のお店は町田。前の店と違いスタイリスト同士友人のように話せるフランクでカジュアルな雰囲気に驚いたそうだ。お店を複数経験したことで、経営のスタイルの違いも学べたし、一見さんもたくさん来る店だったので多種多彩なヘアースタイルも経験できて、成長できたと思っている。ここは7年勤務する。

顧客にじっくり向きあった丁寧な仕事がしたいと思い、店を変わる。今度の店はオーナーと小野さん二人だけ。店内も広いし、空気感も柔らかい。アシスタントがいないので最初から最後まで小野さんがやる。だからなのか、古くからの常連客の違った側面が見えてくるという。お客さんが本当に寛いでいるから素の姿を見せるのだろう。

小野さんの美容人生は19年を過ぎようとしている。いい人生だったと思う。美容は人と接し、人を変えることができる魅力的な仕事だと思う。しかも、終わりが無い。

顧客は写真やスタイルブックを使って望むヘアースタイルを伝えてくるが、大切なことはその人が望むことの本質を理解し、それをヘアースタイルに実現していくことだと思っている。写真やスタイルブック通りやればいいというわけではない。そこが難しいし、やりがいを感じる面白いところ。

また、美容室は自宅でもない、職場でもない第三の場所。人は多忙な日常を一時でも忘れさせてくれる非日常の場所を求めて美容室に足を運ぶ。そんな人達に美容を通して最良の空間を提供していきたいと思っている。

「縁あって出会ったお客様との絆を大切にしていきたいし、お客様には毎日を嬉しく、楽しく過ごして頂きたい」と小野さんは最後に話してくれました。
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社会の中で美容室やスタイリストが担っている大切な役割を再認識するインタビューとなりました。
(インタビュー・文/山本満)